[映画]  瞳の奥の秘密 El secreto de sus ojos (2009年)

2009年のアカデミー賞外国語映画賞を獲得したアルゼンチン映画の佳品。

2000年代初頭の現在と25年前(1970年代)のアルゼンチンの世界が交錯する。アルゼンチンの国民、特に労働者階級に圧倒的な人気のあったペロン大統領が1974年に心臓病で急死すると、大統領を継いだ彼の妻イザベルは反対派に対する弾圧を開始する。この状況は彼女がクーデターによりビデラ将軍に追い払われたことで解決するものではなく、反対派に対する弾圧虐殺はビデラが大統領になるとさらに悪化するのであった。こうしてアルゼンチンは「汚い戦争」と呼ばれる内乱に突入していくのである。この映画はそういった状況には直接触れていないが、その社会的背景を理解することなくしてこの映画を理解はできないであろう。

この映画を貫くテーマは、「人間で唯一変わらないのはその心の中に燃える情熱である」ということである。25年前ブエノスアイレスの刑事裁判所の捜査官であったベンハミンは、銀行員の若妻の殺人事件の捜査を任されるが、被害者と共に写真にいつも写っている若者の瞳の奥に隠される危険な情熱の塊をみる。彼がそれに気づいたのは、彼自身もいつも瞳の奥で美しい上司イレーネを見つめ続けていたからである。その写真の中の男性が容疑者なのだが、彼は果たしてどこに潜んでいるのか?ベンハミンの腹心の部下は「人間で唯一変わらないのはその中に燃える情熱である」とベンハミンに説き、何と二人はその説に基づき容疑者を逮捕することに成功する。

しかし、ベンハミンと彼を信じる美しい上司イレーネは容疑者を野に放たざるを得なくなる。その理由は上記の政治的理由からである。実直な操作を続けたベンハミンの身に危険が迫る。上流家庭の出身であるイレーネの身の安全は保たれるがベンハミンは身を守るためにブエノスアイレスを離れなくてはいけなくなる。

25年後、社会も安定し、今は初老に差しかかったベンハミンは25年前に閉じられた若妻殺人ケースを調べるため、そして今は検事に出世しているイレーネに会いたいがためにブエノスアイレスを訪れる。相変わらず美しく、優しく愛情に満ちた心でベンハミンを迎えるイレーネ。そしてベンハミンの思いは妻の殺人犯の告発に全力を尽くしていた夫に至る。彼はどのようにして、妻を失った苦しみを乗り越えているのだろうか。そしてあの殺人犯は今どうしているのだろうか。まだ生きているのだろうか?それとももう死んでいるのか? その謎を解くのはやはり、「人間で唯一変わらないのはその心の中に燃える情熱である」というテーマである。その言葉に従ったベンハミンは銀行員の夫と殺人犯の意外な人生を発見するのである。そしてまた彼の心の中に消すこともできず燃え続いてるイレーネへの思いを発見するのであった。

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