[映画] 戦争と平和 (1956年)

1812年のナポレオン率いるフランス軍の帝政ロシア侵攻を縦糸に、ロシア貴族の三つの家族を含む500人の人物を横糸に、文豪トルストイが1865年から1869年にかけて執筆した大河ドラマを基にして、1956年にハリウッドが全力をあげて製作したドラマである。

4巻にも渡る長い小説を、他はできるだけ省いて、ベズコフ伯爵の庶子であるピエール (ヘンリー・フォンダ)、彼の無二の親友アンドレイ公爵(メル・ファーラー)、そしてロストフ伯爵家の娘ナターシャ(オードリー・ヘップバーン) の三人の愛情の縺れを中心に描いているのだが、それでも3時間以上の長さになり見ていて退屈してくる。スクリーンからはハリウッド臭の香水がぷんぷんと漂い、ロシアの大地の香りはどこに行ったの?という感じである。しかしこの映画をぶちこわしているのは、ファンには申し訳ないが、オードリー・ヘップバーンの大根女優ぶりではないだろうか?

咲き初めた花のようなナターシャを演じるには、オードリー・ヘップバーンはいささか年を取りすぎているが、可憐な感じを出そうとして、ただ落ち着きなく動き回ってキャンキャンと可愛い声を出している感じ。アンドレイ公爵とは広大なロシアの大地で知り合ったはずなのだが、映画では退屈な舞踏会での二人の出会いとなり、誰も相手にされずにふて腐れているナターシャにアンドレイ公爵が踊りを申し込むと彼女はいっぺんに有頂天になり、アンドレイ公爵と結婚すると言い出す始末。アンドレイ公爵が戦地に赴いたのちは、ピエールの妻ヘレーネの兄アナトールに誘惑されて、いとも簡単にその誘惑に落ち、駆け落ちを企てる。結局アンドレイ公爵もアナトールも失った後、再び自分の前に現れたピエールを見ると「ふふふ」といとも簡単にくっついて映画は終わるというわけだ。ピエールを演じるヘンリー・フォンダもあまりにも美男子すぎて、ついついなぜナターシャはこんなハンサムなピエールがそばにいるのに、無視をしていたのと思ってしまう。原作は実は「ナターシャは若いがゆえに、自分の魅力にも気づかず、何が人生で大切なのかまだわかっていない。しかし、戦乱の困難を乗り越えて行くことで、階級を越えて人々を助けることに意義を見出し、強く美しい大人の女に成長し、今まできがつかなかったピエールの心の真実に気がつき、愛が芽生える。」と言う深いトーンであることを祈りたい。そうでなければ、どうしてトルストイの原作が不朽の名作として残っているのだろうか?しかし残念ながら、このハリウッド映画はひたすら軽いのである。

閑話休題、あるアメリカ人の男子学生が、女性の魅力を三人の女優に象徴させて表現していた。彼にとっては三大女優はグレース・ケリー(美しさ)、マリリン・モンロー(セクシーさ)そしてオードリー・ヘップバーン(可憐さ)であるそうで、話を聞いていたほかの男性もいたく同意していた。この三女優はいみじくも同世代であり、グレース・ケリーとオードリー・ヘップバーンは同い年、マリリン・モンローは二人より3歳年上である。時代を虜にした同世代の女性は他にも『美人』の代名詞ともなったエリザベス・テイラー(二人より3歳年下)や大統領の妻ジャックリーン・ケネディー(二人と同い年!!!)そして大輪の花ソフィア・ローレン(二人より5歳年下)などがいる。エリザベス・テイラーが人間味、ジャックリーン・ケネディーが権力、ソフィア・ローレンがたくましさを象徴するとしたら、これらの同世代の6人の女優は女性の魅力を違った角度からきらきらと表現してくれているともいえるだろう。

グレース・ケリーとジャックリーン・ケネディーに関して、面白い話を聞いた。二人が偶然おなじ晩餐会に出席したことがあったそうだ。グレース・ケリーはどこに行っても男性の関心を引き続けていたが、その晩だけはすべての男性がジャッキーに群がり、誰もグレースに興味を持つ男性はいなかった。グレースは悔しさのあまり洗面所に篭り、一晩中泣いていたそうだ。私は後彼女がモナコ大公との結婚を決意したのも、その晩餐会の悔しい思い出が一役買っていたのではないかとさえ思っている。

話が脱線したが、この6人の女優もソフィア・ローレンを除いてすべてもうの世の人ではない。「戦争と平和」の映画から話題がずれたが、この6人が活躍した時代は戦後まもない活気あふれたハリウッドであり、この映画もその谷に咲いたあだ花ともいえるのである。

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3 thoughts on “[映画] 戦争と平和 (1956年)

  1. いちごさん
    女性の魅力をグレース・ケリー(美しさ)、マリリン・モンロー(セクシーさ)そしてオードリー・ヘップバーン(可憐さ)と表現(^^)

    私も同意してしまいます(笑)映画と脱線の話が面白いです!

  2. Pingback: [映画] 真昼の決闘 High Noon (1952年) | 人と映画のタペストリー

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