[映画]モスクワは涙を信じない Москва Слезам Не Верит Moscow Does Not Believe In Tears (1979年)

題名の「モスクワは涙を信じない」とは「泣いたところで誰も助けてはくれない」という意味を持つロシア語の格言であるそうだ。1980年のアカデミー外国語作品賞も受賞したということで、1980年代から始まった「建て直し」の直前に感じるソ連に対する諸国の明るい期待をになっての受賞となった。確かに悪い映画ではないし、ロシア人の生活もリアリスティックに描いているので、ロシア人にもその他の国の聴衆からも暖かく迎えられた作品というのも納得がいく。

粗筋を簡単に述べると、1950年代後半から1970年代後半にかけてのモスクワを舞台に、田舎から夢と仕事と結婚相手を求めてモスクワに出てきた3人の労働者階級の女性の20代から40代への成長を描いている。エカテリーナは学問により出世をしようとする。その途中でテレビ局のカメラマンのルドルフとの間の子供ができてしまうが、認知してくれぬ男に頼らず、大学に行き、20年後には大工場のディレクターに出世する。エカテリーナの一人の友人アントニアは労働者の夫と結婚して堅実な生活を築いている。もう一人の友人リュドミラは玉の輿を狙い、それが成功したかに見えたが結局その結婚は失敗してしまう。エカテリーナは労働者ゴーシャと出会い真剣な交際を望むが、ゴーシャはエカテリーナが自分よりも給料が高いことを知り、離れていく。悲しむエカテリーナに昔の友人たちが集まりなんとかこれを解決。ロシア人と一緒に仕事をした人は、ロシア人が情にもろく友情に溢れたに人々だとわかることが多いだろう。この映画はキャリアの話、女性の自立、ソビエトの市民の日常の話であると同時に友情の話でもある。ただ一つこの映画にないもの、それは体制に対する批判である。

30年後の2012年。ロシア大統領選はプーチン首相が約64%の得票で当選したが、その勝利演説でプーチンは涙を流した。中流層の反プーチン運動の高揚で追い詰められた選挙戦だったがやはりプーチンは強かった。プーチン氏は演説で、「われわれは開かれた公正な戦いに勝ったのだ」と絶叫した。ステージに上がる前から涙が頬を伝わっていたようで、演説中はぬぐおうともしなかった。その後、「あの涙は何だったのか」との問いに、プーチン氏は「風が目にしみたのだ」と答えたそうだ。

翌日の反政府デモ隊は「モスクワは涙を信じない」と書いたプラカードを掲げて不正選挙に抗議した。ロシア人はこの映画があってよかった。しかしプーチン率いるロシアはこれからどうなっていくのだろうか。いろいろ不穏な現代情勢の中、ロシアが強くて健康な民主国家に育っていくのは、ロシア国民だけではなく、誰もが願うことだと思うのだが。

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