[映画] エビータ Evita (1996年)

これは1996年に公開された映画であり、一応アカデミー賞に幾つかノミネートされ(歌謡賞受賞)、エバ(エビータEvita)を演じたマドンナはゴールデングローブ賞の主演女優賞も受賞しているのだから、それなりに評価されている映画ではあるのだろうが、なんと16年間も誰一人として、この映画を私に推薦してくれた人はいなかった。何も期待せずに見て本当に足元をすくわれるほどびっくりした。素晴らしい映画なのだ。何が素晴らしいといえば、当たり前すぎるかもしれないが、マドンナの歌唱力が圧巻なのである。しかし面白いことに、マドンナは主人公のエバ役をやりたくてやりたくて、一生懸命自分を売り込んだのだが、映画会社側には冷たくあしらわれ、製作者は他の女優を捜し続けていた。結局他の女優がみな都合がつかずにしかたなく(?)エバ役は最終的にマドンナに落ち着いたという。しかし、私はマドンナ以外の女優がエバの役を彼女ほど見事に演じられたとは思わない。その理由を述べてみよう。

第一に、これはミュージカルであるから、エバを演じる女性は演技ができる歌手か、或るいは歌が歌える女優でなければならない。エンタテインメントの三要素は「歌って踊って演技ができる」であるが、そこはそこ、ポリティックスが働き、アメリカの芸能界では「歌と演技」が絶対的な権威を持ち、踊りの政治力は弱い。であるから、バレーの吹き替えをやってもらった ナタリー・ポートマンはアカデミー賞がもらえるが、歌の吹き替えをやってもらったオードリー・ヘップバーンのマイフェアレディーはアカデミー賞の候補にもなれない。逆に映画の中で自力で歌ったリース・ウィザースプーン(ヲークザライン、君に続く道)やシシ・スペイセック(歌え!ロレッタ愛のために)は軽々とアカデミー賞を取ってしまうというわけだ。それだけハリウッドやブロードウェイでは歌唱力が尊重される。

第二に、この映画はエバが20代の時を描くわけだから、カメラのクローズアップに耐えられるためにも、現実的であるためにも、エバ役は20代或いは30代前半の女性が望ましい。ブロードウェイのEvitaの舞台で圧巻のエバを演じていた舞台俳優パティ・ルポンは映画の製作時に47歳であったから、彼女はなんとエバ役ではなく、エバの老母役!!!をオファーされたという。パティが断ったのは言うまでもない。

第三に、エバの持つ美貌と気品と野心と野外バルコニーという広大な設定でも小さくならないふてぶてしい強烈な存在感が無くてはならない。20代の女優ではちょっときついかもしれない。

以下は監督や製作者が真剣にエバ役を交渉した女優たち。

メリル・ストリープ 彼女は映画の製作時には40代半ばであった。
ライザ・ミネリ メリル・ストリープより更に3歳年上。
バーバラ・ストライサンド ライザ・ミネリより更に4歳年上。
シャー ライザ・ミネリと同い年。
グレン・クロース メリル・ストリープより更に2歳年上。
オリビア・ニュートンジョン メリル・ストリープより1歳年上
ミシェル・ファイファー マドンナと同い年。映画製作時には30代半ば。

というわけで第二の条件を満たすのはマドンナとミシェル・ファイファーだけであり、演技がそこそこだがカリスマのある歌手マドンナを選ぶか、歌が結構歌え、演技派の定評があり美しいミシェルを選ぶかということになる。最後の決め手となったのは二人の間のやる気の差だろう。ミシェル・ファイファーはちょうど結婚や子育てが面白くなりかけた時で、スタッフが必死で実際のエバが暮らした官邸でのロケの権利を勝ち取ったにもかかわらず、アルゼンチンまでロケに行くことに難色を示した。ミシェル・ファイファーは私生活でも恵まれすべてのほしいものを手にいれたという穏やかさをいつも発している。やはり野心家のエバを演じる女優は、誰よりもgo-getter (ほしいものは何でも手に入れたい人)のマドンナに勝る女優はいないだろう。彼女の歌もすばらしいが踊りもタンゴの精髄を捉えて素晴らしい。

また狂言回しのチェ・ゲバラらしき男を演じるアントニオ・バンデラスの歌と踊りも素晴らしい。彼は自分が上手であると誇ることなく自然体で踊り歌っているのである。

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