[映画] クィーン The Queen (2006年)

今年はエリザベス女王の在位60年の式典とロンドンオリンピックがあり、英国民にとっては思い出深い年になったと思う。過去60年間は誰にとっても激動の時であっただろうが、特に女王にとっては、第二次世界大戦からの復興、英国病からの回復、冷戦、IRAの反乱、フォークランド戦争、対イラク、対アフガニスタン戦争、英連邦内の軋轢等数々の困難を越えての60年の治世であった。

この映画は1997年のダイアナの突然の死に際して、エリザベス女王が取った決断を描いている。「国民のプリンセス」として深く敬愛されたダイアナの死に対し、女王は、王室を去った女性の死は「プライベートマター」であるとして、彼女の死後もバルモラルの別荘にこもり続けたが、その態度は「王室の冷たさ」と国民の目に映り、国民の王室支持率は、突然過半数を割ってしまった。保守党政権を倒して新たに政権をとったブレア首相は、ダイアナに対する親愛を自分の支持に結びつける機敏な動きを取るが、同時に、女王にこれ以上王室がダイアナ無視し続けるのは王室に対するダメージになると忠言する。かつて保守党のサッチャー首相が公席で衣装かぶりをするのを怖れ「女王陛下は何をお召しになりますか?」と訪ねた時、きっぱりと「臣下の衣装には興味がない!」と述べ、王室と臣民の差を明らかにさせた位の女王であるから、なぜ離婚して王室を去っていった女性を王室の一員として扱わなければならないのか納得できない。しかし、心の底からダイアナを悼む国民を目の当たりにして、父ジョージ六世が即位した瞬間から、自分の一生は24時間365日国民に奉げると決意した女王は、もしダイアナの死は真の王妃の死であると国民が望むことなら、自分が今まで信じて来たことを変えてもいいと決意するのだ。

バッキンガム宮殿の前でに積まれたダイアナへの花束の山を見ている女王に一人の少女が花束を差し出す。「ダイアナ妃へのお花を私が奉げてあげましょうか?」と花束の山を見る女王に対して少女はきっぱりと「いいえ!!!」と答える。驚く女王にその少女は美しい瞳で、「この花はあなたに奉げたいのです。」と答える。その時の女王の感動の表情、女王と女王を演じる女優ヘレン・ミランが魔法のように融合した瞬間であった。テレビの実況で、国民に王室からのダイアナの死の追悼を述べる女王は、一人の暖かい義母であり、ダイアナの王子を心配する祖母であることを国民に強く印象付け、それをきっかけに国民の女王に対する敵意は解けていくのであった。

エリザベス女王の世代に取って、皇太子妃は他国の王家の娘か、最低でも英国の貴族の娘であるべきだった。チャールズ皇太子がカミラと恋仲であった時も、カミラは英国の上流階級の出ではあるが、最高位の貴族の出ではないということで反対にあい二人の結婚はかなわなかった。ダイアナは名門中の名門スペンサー家の娘であり、若くて早速王子を二人生むという快挙を成し遂げたという点では完璧な皇太子妃であったが、結局いろいろな理由で離婚ということになった。離婚協議中の泥沼劇と離婚後のダイアナの奔放な行動は、女王にとって「王室に泥を塗った」行為と移ったであろう。その中で女王も、もはや皇太子妃を階級で選ぶ時代は過ぎたということを、学んだであろう。英国の親戚筋にあたるヨーロッパの若い世代の皇太子のお妃はほとんど平民で、離婚経験のある者、大麻喫煙の経験のある子連れ、麻薬王の元愛人、政府高官の元愛人、南米の独裁虐殺者の内閣の要人政治家の娘、アジア系やブラックの血の入った女性など、女王の世代では考えられないような女性たちなのであるが、彼女たちはそれなりに国民の支持を受け、公務もてきぱきと行っているのである。

女王はずっとカミラに好感を持っていたそうだ。カミラは「ダイアナを追い出した憎むべき醜い女性」として長く国民から嫌われていたが、一言も自分を弁護することはなく、チャールズに従い大変な激務である公務を黙々と果たし続ける彼女を見て、「公務に対する責任感があるし、私!私!という野心もない。これだけの困難を乗り越えてチャールズに添い続けるのは、もしかしたら真実の愛というものなのかも知れない」と国民の見方も変わり始めた。カミラが訪米した際アメリカのジャーナリストは次のように書いている。「素顔のカミラは想像していたよりもずっと美しいし、優しさのこもったユーモアに溢れている。彼女をみていると、もしダイアナが生きていたら、カミラのように自然に美しく年を取るのは案外難しかったのではないかとすら思わさせるものがあった。」

ダイアナの忘れ形見ウィリアム王子の永年の恋人ケイト・ミドルトンもなかなか女王の結婚の同意がえられなかった。ケイトの家は一代で成しあがった富豪の家で、父親はまあ中流階級といえるが、母親は労働階級出身で野心たくましい印象を与え、また母方の叔父は麻薬の所持販売で逮捕されたという過去もある。しかし女王の懸念は、大学卒業後も働かずウィリアムからの結婚を待っているだけだとからかわれている彼女の評判にあり、ウィリアムに真剣に「彼女は健康なのに、なぜ働かないのか?」と訪ねたこともあるという。結局二人の間には一番大切なもの、愛と信頼があると確信した女王は二人の結婚を承認したわけだが、ウィリアムの妻になったケイトは、公務もきちんとこなし国民の人気も絶大なものがある。

エリザベス女王の人気は衰えることをしらず、ロンドンオリンピックの開会式でもボンドガールとしてヘリコプターから飛び降りて、開会式に臨席する(とみえる演出であるが)というセレブリティーまがいのことをやってしまったが、これも国民のためならば、オリンピックの成功のためならばという女王の意図であろう。これからもずっと長生きをしてほしい女王であるが、彼女の逝去の際は国民は深い悲しみに襲われるだろう。しかしその悲しみはダイアナの死と異なり、彼女の永年の国民への奉仕への感謝と、次世代への希望が込められたものになることは間違いない。

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