[映画] ベル・エポック Belle Époque  The Age of Beauty (1992年)

1931年、王制を廃止し共和国スペイン設立を狙う共和党派とそれを阻止しようという王党派の国民党が激突するスペインで、共和党軍に志願したものの脱走したフェルナンドと、彼を庇護下に入れた村の芸術家と4人のその美しい娘たちを中心に話は展開する。

フェルナンドは美青年で、女性に優しく、純情で、料理がめっぽううまい。4人の娘はマドリッドに住んでおり夏にだけこの村に戻ってくるのだが、マドリッドが政治的に混乱する中で「デモに飽き飽きした。」ということで突然村に戻ってくる。長女、次女、三女がそれぞれの手を尽くして彼を誘惑し、三女に言い寄る国民党の若者のバルコニーの下での求愛のセレナード、家族の友人であるカトリックの神父との愛に満ちた昼食、カーニバル、楽しいピクニック、オペラ歌手で世界的に成功している母の突然の帰宅など、毎日絵に描いた様な楽しい日々が、美しい映像と音楽、微笑みと家族の愛、素晴らしいユーモアを全篇に散りばめることにより描いている。共和党派が勝利をおさめ、母は再び世界ツアーに旅立ち、三人の上の娘は「また夏に帰って来るわ」とマドリッドに戻り、末娘はフェルナンドと結婚し land of opportunity である「新天地」アメリカに旅立つということで話が終わり、めでたしめでたし。

というのが美しい表布であるが、それを支える裏布がこの楽しくてユーモラスな話に隠されているのだ。

映画は逃亡したフェルナンドが国民党の憲兵に逮捕されるところから始まる。この憲兵は父と婿なのだが、父は「もしかしたら共和党が勝つかもしれないから、共和党派の兵士には優しくしてあげよう」と、フェルナンドを釈放しようとする。怒った婿は思わず義父を射殺してしまうが、愛する義父を殺した婿はその罪におののきフェルナンドの前で自殺してしまう。

四人の娘たちは皆美しく魅力的なのだが、長女の夫は昨夏のピクニックの時池で溺死している。次女はレズビアンである。三女は、カトリックで裕福な家の出で王党支持者の恋人をどう扱っていいかわからず混乱している。末娘はフェルナンドに強い思いを持つが誰からも子供扱いにされておカンムリだ。母も四人の娘の将来を考えて、頭が痛い。長女は相変わらず美しいが毎年確実に年を取っていくのがわかり、未亡人としてこの先どうしていくのだろうか。次女はプロフェッショナルな仕事を持ち、経済的には安定しているが、彼女を本当に愛してくれる伴侶(それが男であっても女であっても)に巡り合えるだろうか。三女は手に職をもつこともなく刹那的な生き方をしており、求婚者を真面目な気持ちで扱っていない。しかし母親もその男と結婚することが本当に三女を幸せにしてくれるのかわからない。母は誰もから子供扱いされている末娘が、姉たちの人生から学ぶことにより案外地についた人生を送ってくれるのではないかと思っている。その母にしても、自分は世界的なオペラ歌手だと信じていても、実際の興行は赤字続きで、恋人兼マネージャーの男が自分のポケットから財政を負担することにより、かろうじてスターの地位を保っているだけなのだ。

共和派が優勢になることにより、頑固な王党派だった三女の求婚者とその母はさっと共和派に鞍替えする。しかし、末娘とフェルナンドの結婚式の日に家族の友人であった神父は首を括って自殺する。たとえスペインが共和制になったとしても、共和軍の脱走兵であるフェルナンドの過去は消えない。アメリカに移住するのがフェルナンドの唯一許される選択なのであった。

「来年の夏が楽しみ」といって別れて行く家族だが、政治危機がつのるスペインに暮らす彼らに果たして、楽しい来年が待っているのだろうか?アメリカに渡ったフェルナンドと末娘は当分スペインに帰ることはないだろう。オペラ歌手の母にしても、マネージャに見放されたら、南米のどこかで野垂れ死にする可能性すらあるのだ。混乱期のマドリッドに暮らす3人の娘たちに何が起こるかもわからないし、何よりも村にたった一人で残された老いた父はもしかしたら明日何かの病でたった一人で死んでしまことだってあり得る。しかしこの家族にとって脱走兵のフェルナンドと暮らしたこの短い日々は、何年かの後振り返って、「美しい日だったわね。」と思えるものなのかもしれないということを示唆して映画の幕は閉じる。

事実、共和制はすぐに崩壊し、スペインは内戦に突入して行く。内戦後もフランコの独裁政治が続き、フランコの死後も政治不安定が続く。スペインが本当に民主国家として安定したのは1981年、反フランコ者の名誉が回復するのは2008年まで待たなければならない。この映画が作成されたのは、1992年、国政の安定なしにはこの美しい映画を作るのは難しかったであろう。しかしそれでも、1992年には直接的なファシスト批判はきっと簡単ではなかったであろう。その苦衷の結果がこの美しい映画となって結実した。

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