[映画] 誰がために鐘は鳴る For Whom The Bell Tolls (1943年)

「行動する知性」として地球上どこでも、匂いを嗅ぎ付けて何かありそうな場所に本能的に引き付けられてしまい、そこに実際に行ってしまうヘミングウェイ。彼はNorth  America Newspaper Alliance の特派員としてフランスに派遣された。「誰がために鐘は鳴る」はヘミングウェイが1940年に出版した 隣国のフランコ政権下で市民戦争が起こっている1930年代のスペイン内戦(フランコたち軍部が率いるファシスト軍とそれに対抗するゲリラたちの抗争)を、反ファシストを支援するアメリカ人の架空の人物を通じて描いた小説である。この映画はその小説の1943年の映画化である。ヘミングウェイの親友で、彼に俳優としても信頼されていたゲイリー・クーパーが 『武器よさらば』(1932年)に次いで主演しており、主人公の恋人マリアを演じるのはイングリッド・バーグマンである。

スペインでは1931年に王制が倒され、憲法に基づく共和制が始まったがその後も政権が安定せず、1932年の軍部クーデターがきっかけに混乱状態に突入した。実際の公式のスペイン内戦は1936年から1939年までであるがこの映画は1937年を描いている。これは単なる内戦ではなく共和派には、ソビエト連邦、メキシコ、各国からの義勇軍が加担し、フランコ将軍等が率いるファシスト党には日本、ドイツ、イタリア、ポルトガルが支援をした。その勢力は全く伯仲し、紛争の中で50万人以上が殺されたとい言われている。この映画はマドリッドに近いセゴビアの山間にこもる共和派のパルチザン・ゲリラたちと、ソビエト連邦の指揮官の指示のもとに彼らを支援するアメリカ人のスペイン語の大学教師にして爆破スペシャリストでもある主人公との繋がりを描いている。かつてはヘミングウェイが支持していたイタリア軍の爆撃機が、アメリカ人の主人公が潜んでいる山にも攻撃をしかけてきて、20年間という時代の変遷を感じさせる。

映画に話を戻すと当時のマリア役には当時のトップ女優がこぞって興味を示したが、実際に選ばれたのは演技に無縁のバレーリーナであった。撮影が始めると監督は彼女の演技力に不満を抱く。彼女はその役をクビになる前に自分からマリア役を降りてしまい、急遽行われたオーディションで、ヘミングウェイが希望したイングリッド・バーグマンが選ばれ、マリアに関するシーンの撮り直しが行われたという。その状況に関してイングリッド・バーグマンは次のように語っている。

「あのバレーリーナがマリア役を自主的に降りたのは、マリア役は洞窟のある絶壁を上り下りする過酷な役で、彼女は自分の足がこの撮影によって傷ついてしまうのを恐れたからです。そう、バレリーナにとっては足が一番大切なもので、それは女優にとって顔が一番大切なのと全く同じではないかしら。」

彼女の何気ない一言は当時ハリウッドで一番大切なものは「美貌」であったということをいみじくも語っている。道理で、1950年代よりも前のハリウッド映画は美男美女の学芸会だったわけだ。

今日でももちろん、ジュリア・ロバーツやブラッド・ピットやトム・ハンクスのように「出てさえいただければ無条件にン(!)億円の出演料」という「顔」で選ばれる俳優もいないことはないのだが、やはり現代での俳優の選択の基準は「どれだけ、リアルにその役柄を演じられるか」になっているのではあるまいか。そういう意味では最も大切なのは、俳優の、その役柄の時代性と年齢と人間性と多彩な人種を現実的に表現できるバックグランドと演技力である。また映画製作はチームとしてのプロジェクトであるから、皆に好かれるチームプレーヤーでなくてはいけないし、健康で時間を守り、他の人の時間を無駄にしないプロフェッショナリズムを持っていないといけない。『時は金なり』で時間を無駄にしてはいられないのである。

イングリッド・バーグマンの同世代の女優としては、ビビアン・リー、オリビア・デ・ハビランド、ジョアン・フォンテーン、ジェニファー・ジョーズ、ロレッタ・ヤングなどがおり、彼らはハリウッドの花のグレース・ケリー、オードリー・ヘップバーン、マリリン・モンロー、エリザベス・テーラーなどの一世代前の女優たちである。同世代の女優たちが早世したり女優としての活動が短期間であるのに対し、イングリッド・バーグマンは死ぬ直前の1980年代まで女優としての活動を続け大女優としての名声を保ったまま世を去った。ただ美しいだけの女優ではなかったのだろう。

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