[映画]  インビクタス/負けざる者たち Invictus (2009年)

南アフリカ共和国は、長年続いたアパルトヘイトを1994年に廃止し、全人種による総選挙でネルソン・マンデラが大統領に選ばれた。それまで政府の主要ポストを占めていた白人官僚たちは、マンデラが報復的な人事をするのではないかと恐れ、一部の者達はそれを見越して荷物をまとめ始めていた。それに対しマンデラは、初登庁の日に職員たちを集めて「辞めるのは自由だが、新しい南アフリカを作るために協力してほしい。」と呼びかけた。彼は二言目には「報復」を口にする黒人たちのスタッフを諌め、新国家はすべての人種の協力無しには築けないと説いた。ボディーガードチームも黒人と白人の混成チームとなった。

マンデラは、スポーツが人々の心を繋ぐ最大の方法であることに目をつけ、1995年に南アフリカ共和国で行われるラグビーワールドカップを国民の心の団結の手段に使おうとする。南アフリカ代表のラグビーチーム スプリングボクスは当時低迷期にあったが、そのスプリングボクスは、ラグビーワールドカップにおいて予想外の快進撃を見せ、ついに決勝進出を果たす。強豪ニュージーランドを破った瞬間、人種を問わずすべての南アフリカ共和国聴衆が抱き合うシーンでこの映画は終わる。

私はマンデラ大統領に関しては殆ど知識がなかったが、この映画を見て、彼はなんと素晴らしい政治家だろうと感服した。彼の政治的決断は非常に現実的で、報復の禁止もスポーツの活用も、それが一番政治的に効果があるとわかっているから、それを実行するのに何も迷いがないのだ。しかし、ただ政治力に長けた政治家にすぎないのかといえば、理想主義と人道主義に裏打ちされた強さももっている。まさに政治の名コーチであり、もし全ての国がマンデラのような指導者をもてば、この世はもっと平和な場所になるのではと思わせる。

スポーツと愛国心の繋がりはオリンピックを見ればわかるだろう。金権オリンピックとか、ドラッグの使用、勝つためには何でもする、などと批判されても、もしオリンピックがなければ、人間がどれだけの可能性を持っているのか、国を代表して戦うというのがどういうものかというのがわからなくなるだろう。少なくとも、ジャマイカやグラナダという国に興味を持つ人間はもっと少数になってしまうのではないかと思わせる。マンデラが球技を国民の団結に使用したというのも素晴らしい。フィギュアスケートや体操に比べて、球技はどちらが勝ったのかが客観的に明確になる。しかし水泳や陸上のような個人が英雄になる競技と比べて、チームメンバー全員が英雄になるのである。勝つためには、すぐれたチームワークがなければいけない。

ネルソン・マンデラが、自分の自伝が映画化されるのなら、自分を演じるのはモーガン・フリーマンだと公式に述べて以来、二人は親交を深めていた。そのモーガン・フリーマンがこの映画の主役に決まった時、過去3作の映画を共に作り自分が尊敬していたクリント・イーストウッドに脚本を送り、監督を依頼したという。この映画はチームワークの賜物なのだろう。映画作成に参加した人々が皆その経験を楽しんだに違いない、そう思わせるような映画であった。

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