[映画] デイズ・オブ・グローリー Indigènes Days of Glory(2006年)

戦争映画は数多くあるが、この映画は他の映画にないユニークな観点を提供している。第二次世界大戦のナチ占領下のフランスの抵抗と勝利が表であるが、これは単に「行った、殺した、勝った」というフランスの勝利ではなく、その中にすでに対戦中に芽生えているフランス植民地の独立の動きと独立後の不正義を暗に描こうとしている。

原題のIndigènesとは原住民という意味である。その地にもともと住んでいたが、よそから侵攻して来た他民族の支配下に押されて少数民族となり、社会の底辺層に置かれている民族を総称する。アメリカ・インディアンやオーストラリアの原住民、日本のアイヌ民族もその例である。民族移動の激しいアフリカのサハラ以北には数多くの原住民がいるが、最も有名なのはベルベル族であろう。ベルベル族は放牧民族であり、アフリカの社会では底辺層に入れられることが多かった。しかし、忠義心に厚く勇敢であり、移動することも厭わなかったので、優秀な傭兵として支配階級に利用されることが多かった。北アフリカでアラブ人に抑圧されていたアルジェリアやモロッコのベルベル人の多数は、殖民国フランスがアラブ人とベルベル人を公平に扱うと感じ、自分はフランス人であり、フランスが母国であると信じ、フランスに熱烈な愛国心を感じていた。フランスは対独の劣勢を覆すために北アフリカの志願兵を基にした自由フランス軍を組織した。自由フランス軍はセネガルの徴集兵、フランス外人部隊、モロッコ人、アルジェリア人、タヒチ人などから成っていた。この物語は自由フランス軍に志願し、死も恐れず勇敢に戦ったベルベル人の兵士たちの物語である。

アブデルカダはインテリで、兵役試験でトップを取りベルベル人部隊の兵士長に任命される。彼は将来は勲功を立て、勉強を重ねフランス軍で昇級したいという野心を持っている。公平な立場で部下のいさかいを仲裁し、アラブ人としての団結も説くが、彼の努力は全く無視され、フランス系のアルジェリア人が彼を差し置いて昇進される。屈辱を感じながらも彼はフランス軍への忠誠を失わない。

マーチネス軍曹は、フランス系のアルジェリア人であるという理由だけで、昇進されアルジェリアのアラブ軍を率いているが、知的に軍を統率するのは苦手で、怒るとすぐに暴力にでてしまう。彼自身もアブデルカダの方が自分よりすぐれたリーダーであることを内心認めている。彼は一応フランス系ということになっているが、実は母はアラブ人であり、そのことを人に知られたくないと思っている。

サイードはベルベル人の中でも最も貧困な地域の出身である。母は息子が出兵して報奨金や恩給をもらうより飢え死にした方がましだと彼の志願を止めるが、彼は純粋な愛国心でフランスを守るために戦争に行くのだと、母を振り切って志願する。野心のない素朴で忠実な人間性をマーチネス軍曹に認められて彼に取り立てられる。

ヤッシールは弟の婚姻費用を稼ぐために、弟をつれて入隊する。弟思いで、人間は常に正しく行動し正直でなければいけないと説く男である。

メサウードは天才的な射撃の名人で、マーチネス軍曹からスナイパーの特務を与えられる。その優れた戦場での功績によりヒーローとなり、彼の名声にあこがれるフランス人の女性と恋に落ち、戦争が終わったら彼女と結婚してフランスで落ち着こうと夢見る。

彼らの最初の任務は南フランスプロヴァンス地方のドイツの砦を落とすことであった。ベルベル人の部隊は先行隊として敵に丸見えの山道を歩かされる。ドイツ軍が彼らを射撃し始めると戦線の後ろに隠れているフランス兵はどこにドイツ兵が隠れているのかがわかり、そのドイツ兵を攻撃し始める。この戦闘はフランス軍の圧倒的勝利に終わるが、これがベルベル人の兵士が自分たちが一番危険な任務に最初に回されることを知る最初であった。。

戦線は膠着し、フランス軍は故郷に帰還せよという命令がくだり、ベルベル人の兵士は喜ぶがこの帰還はフランス人のみに適用され、自由フランス軍の兵士は帰ることを許されず、部隊には厭世の気分が漂い始めた。

自由フランス軍に与えられた最難の命令は、ナチ占領下にあるアルザス地方のコルマールを陥落するために、フランス本土軍とアメリカ軍がやって来るまでに、そこのドイツ軍にできるだけの打撃を与えることであった。マーチネス軍曹も他の小部隊の隊長と共にその危険な任務を任され、彼の配下のアブデルカダ、サイード、ヤッシールとその弟、メサウードも名誉と褒章を求めて参加する。しかしドイツ占領地に入る所に置かれていた爆弾で部隊の殆どは死亡しマーチネス軍曹も重傷を負う。弟を失ったヤッシールがこれ以上戦線にいる意味がないと嘆く中で、アブデルカダは生き残ったサイード、ヤッシール、メサウードをまとめ、アルザスの村に進行し村民から歓迎される。しかしドイツ軍との死闘の中で、サイードは重傷のマーチネス軍曹を守って共にドイツ軍に殺害され、ヤッシールとメサウードも戦死する。

この戦線はコルマールの戦いと言われる。当時コルマールを含むアルザス=ロレーヌ地方はドイツ領であり、ライン川に架かる橋を守る重要拠点であった。激しい戦いの末、フランスとアメリカ軍団はドイツ軍団を敗走させることに成功した。連合軍は21000人、ドイツ軍は38000人の死傷者を出した。これにより連合軍はライン川を渡ることに成功し、ドイツ領への本格侵攻を開始することに成功した。

一人生き延びたアブデルカダはコルマールでフランス軍と合流するが、自分の存在も死んだ戦友のことも全く無視される。後からやってきたフランス人部隊のみが勝利を賞賛される中で、死んだベルベル人の兵士がいたということさえ考えるものはいなかったのだ。

戦争に従軍した兵士は生涯恩給を受け取ることが保障されており、それが志願の動機ともなっていた。しかし、フランス政府はアルジェリアの独立紛争が過激化した1959年にフランス植民地出身で、フランス軍に参戦した兵士にはもう恩給を払わないことを決定した。フランス軍はアルジェリアはいずれフランスから独立するだろうし、別の国となったアルジェリア人にお金を払う必要性がないと判断したからだ。この映画はアブデルカダがアルザスの攻防後60年経って、その地に立つ戦死した兵士たちの墓に墓参するところで終わる。

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