[映画] コーラス The Chorus Les choristes (2004年)

世界的指揮者ピエール・モランジュはニューヨーク公演中に母が死んだという知らせを受け、急遽フランスに帰国する。母の葬儀の後、ペピノと言う男が訪ねてくる。ペピノはピエールと同じ学校に行き、そこでクレマン・マチューという教師に教えを受けたという設定が知らされたあと、映画は50年前に戻る。

第二次世界大戦後まもない1949年、クレマン・マチューは戦争孤児や問題児を集めたFond De L’Étang(池の底)と呼ばれる寄宿舎に舎監として赴任する。そこでは厳格な体罰で子供を抑えようという方針の校長のもとで、子供と教師の間で反抗と厳罰が繰り返されており、子供は将来の目的や夢を伸ばすことも教えられていなかった。音楽家であったマチューはコーラスを通じて、子供と心を通わせ、その中で子供に規律の態度と音楽の楽しさを教えて行った。マチューは、問題児として見られているピエールが、奇跡のような「天使の歌声」を持っていることに気が付き彼の才能を伸ばそうとする。

校長は生徒に対する愛は全くなく、孤児院を経営することで名声や叙勲を狙っている男だった。大量の金が学校の金庫からなくなっているのを発見した彼は、一番の不良少年であるモンダンが盗んだのだと思い、拷問に近い取調べをした後、罪を認めない彼を放校にしてしまう。後にモンダンは復讐のために寄宿舎に放火するが、その時たまたまマチューが全生徒を連れて遠足に行っていたので死者はいなかった。しかし生徒を建物以外に連れ出すのは校則違反だとし、校長はマチューを罷免してしまい、生徒たちにも彼に別れを言うことを許さなかった。

マチューは結局1人寂しくその寄宿舎を去って行き、生徒も彼がその後どうなったのかは知る由もなかったのに、何故ペピノがその後のマチューの人生を知っていたかという理由が、映画の最後の最後で明かされる。非常に感動的な終幕であった。

不良少年が音楽の力でそうも簡単に更生するなんてあり得るかと思われる方もいるかもしれないが、この映画に出てくるのは心の狂った悪童たちではない。この寄宿舎にいるのは、大部分は戦争で親を失った孤児たちか、或いは、夫を戦争で失い終日働かなければならない貧しい母を持つ子供たちである。ここにいる子供達は生きるために店からパンを盗んだこともあるかもしれないが、根本は心寂しく、生き方の方向を教えられていない子供たちである。いたずらもするが、それは自分の軽はずみないたずらが結果としてどれだけ恐ろしいものになるかを両親からきちんと教えられていないからである。いたずらの後で、ひどい体罰を校長から受け、彼らは段々心を閉ざし、ますます悪い行動に出てしまう。大金を金庫から盗んだのはモンダンではなかった。その少年はふと空気船が買いたいと思い立ちお金を盗んでしまうのだが、そのお金をただ自分の秘密の隠し場所に置いたあと、そのお金をどうするということもないのである。

またマチューが接していたのは、変声期前の時期の子供たちである。天使の声のようなボーイソプラノを生み出す本当に短期間の奇跡的な期間にマチューから歌う喜びを教えられた彼らはまだ幼く、父性の愛を求めており、反抗するといっても知れたもので、マチューの慈愛に素直に応えられる年代であった。

ピエールはその才能を発見され、奨学金で高名な音楽学院に進学し、世界的な指揮者となった。彼はマチューのことや、寄宿舎のことは遠い昔のこととして忘れていたが、ペピノからクラス写真を見せられてそれらを懐かしく思い出す。ピエールの人生を見ていると、成長の過程で、特に人間を形成している若い時代によき師に出会うことがどんなに大切なのかということを思い知らされる。マチューとピエールが接した時期は比較的短時間で、マチューはピエールを特別扱いしたわけではない。しかしマチューに出会うことがなければ、ピエールは決して世界的な音楽家にはなれず、下手をすれば刑務所に入るような人生を送っていたのかもしれないのだ。大人になってから自分の小学校の先生に再会するということは、滅多にないだろう。子育てやキャリアの追求に多忙な時に、自分の小学校の先生のことなどは完全に忘れているが、自分の親が死んで、人生は無限ではないとわかり始めた年齢の頃、ふと昔の先生のことを考え、名前は忘れているかもしれないが、その顔や優しくしてもらった思い出を心に浮かべることは案外多いのではないだろうか。

この映画はあの『アメリ』の歴史的なヒットを抜き、フランス映画史でナンバーワンの大ヒットになり、フランス人の7人に1人がこの映画を見たという。製作はフランスの国際的名優(そして美男俳優である)ジャック・ペラン、監督は彼の甥のクリストフ・バラティエ、そして子供時代の可愛らしいペピノを演じたのは、ジャック・ペランの三男マクサンス・ペランである。ジャック・ペランは老境に達したピエールも演じている。ジャック・ペランはあの不朽の名作 ‎『Z』の製作も行い、それでアカデミー賞を獲得している。俳優として成功するのも難しいのに、歴史に残る『Z』と『コーラス』という映画を製作したジャック・ペラン、一体どういう星の下に生まれてきたのだろうか。

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2 thoughts on “[映画] コーラス The Chorus Les choristes (2004年)

  1. 私もこの映画は見ました。ボーイソプラノの美声が森の奥の学校の、教室から流れ出てくるのを、目を瞑って聞き入りました。極上の瞬間ですね。

  2. Pingback: [映画] Z (1969年) | 人と映画のタペストリー

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